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今週の物欲 Vol.1〜 Franco Serblin のKtema 〜唯一無二のスピーカー。

2020年04月09日
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オーディオ

Ktema



Franco Serblin の Ktemaというスピーカー



・価格    467万円(2020年現在、購入可能)
・マニアー度 ★★★★★
・レアー度  ★★★☆☆
・"別格"度   ★★★★★

実は筆者はオーディオマニアーなのですが、今回の物欲はイタリアのスピーカーメーカー「フランコ・セルブリン」のスピーカー、Ktema(クテマ)です。
発売は2010年で、オーディオの世界ではなかなかのロングランモデル。現在も購入することができるためレアー度は★★★☆☆ですが、マニアー度は文句なしの★★★★★。これを所有されている方、あなたは立派なマニアーです

このスピーカーは、価格的にいわゆるハイエンドの領域に位置するのですが、その界隈では複数のオーディオ評論家から「格が違う」と評価されています。ここは所有者の私としても同意する部分で、他のスピーカーとは立っている位置というか次元が確かに異なると実感します。そのため今回は "別格度"を★★★★★と評価しました。


Franco Serblinについて〜 どういうメーカー?

まず、Ktemaを製作しているフランコ・セルブリンというメーカーについて。

創業者のフランコ・セルブリン氏はイタリアでヨーロッパ最大級のスピーカーメーカー、ソナス・ファベールの創業者でもあります。ソナス・ファベールでは世界に先駆けて無垢の木材をスピーカーの材料に取り入れて、数々の名作を生み出します。エレクタ・アマトール、クレモナ、ガルネリ・オマージュ、アマティ・オマージュ、ストラディバリ・オマージュといったオーディオの歴史的にも重要な作品を手掛けました。


ソナス・ファベールで成功を収め名声を獲得したフランコでしたが、大きくなりすぎた会社は資本主義とグローバル社会の圧力を受けて中国で生産を始めたり、一貫して無垢の木材の質感にこだわっていたのに薄ーい突板を表面に貼りつけただけのハリボテモデルを出してしまうなど、彼の意図とは真逆の方向に進まざるを得ませんでした。(最近はやりすぎたと思ったのか、中国生産を止めた模様。)

そこで、フランコはソナス・ファベールから外に出て自らの名前を冠としたフランコ・セルブリンを立ち上げ、2010年に処女作としてKtemaを世に問いました。

彼自身は2013年に亡くなりましたが、このKtemaと弟分のAccordo(フランコの遺作)は未だにハイエンドオーディオで一線級の存在感を放ちつづけています。


Ktemaの特徴〜 世界でこのスピーカーだけが持つもの

次にその構造ですが、唯一無二の構成となっています。
特注のツイーターとスコーカーが配置された前面が極端に絞り込まれており、正面バッフルの響きによる歪を徹底して排除しています。

一方で背面に23cmのウーファー2つが設置されており、バスレフポートも2つありますがこのウーファーに近接して反射板がくっついているのです。そしてこの反射板にバウンスさせた低音が、サイドから左右に放出される仕組みです。


【Ktemaの背面構造】
Ktema背面


さらに個性的なことに、この反射板と側板にバイオリンやギターに施されたものと同様のスリット(反射板に10本、側板に4本の計14本)が設けられていて、響きを調整しています。反射板と側板は盛大に鳴っていて、近年のハイエンドモデルにありがちな「ガチガチに固めたエンクロージャー」とは全くコンセプトが異なることが分かります。あくまで開放的な鳴り方を目指した、スピーカーというよりも楽器に近いコンセプトで製品開発を行ったのだと思います。

Ktemaのサイズは、高さ1,110mm・横幅425mm・奥行き460mmで重さは1つ55kg。高さと横幅の割には前がすぼまっている分、実物は意外にコンパクトに感じます。重さについても、1人で移動させることがギリギリ可能な範囲に収まっていると思います。


そしてそのデザイン。オーディオとして、いや全てのプロダクトデザインの中でも、このデザインは最高峰のものだと思います。
元々オーディオの世界では、特に近年インフレが進んでしまった結果音の良さだけではもはや売れなくなってしまい、デザインにこだわる会社が増えてきました。その中でもKtemaは頂点に位置する製品の1つであり、どこから見てもスキがない完璧に近い機能美を実現しています。

主観になりますが、Ktemaはカメラで例えるとライカのM3と同じようなエポックメイキングな、そして歴史に名前を刻むプロダクトと言っても過言ではないと感じています。(筆者はライカよりもハッセルブラッドが好みですが)

所有した際の満足感は、至高だと思います。スピーカーとしてだけではなくインテリアデザインとして捉えた場合、購入して後悔することはほとんど無いのではないでしょうか。


Ktemaの持つ音楽表現〜 全ては音楽のために

Ktemaは「普遍なるもの」という意味だそうですが、名前とは裏腹に、その音は非常に個性的であると言って良いと思います。
何しろ、同じ構成のスピーカーが世の中に存在しません。

音色でいえば暖色系で冷たい音はほとんど出しませんが、クールな音楽をクールに表現する客観性は持ち合わせています。
解像度は相当に高いですし定位も抜群、さらに音場も(使い方を誤らなければ)とても広く、ステージは奥側深く再現されることに加え、上方にも広がります。
アナログやハイレゾなどフォーマットを問わず、音源の個性を十二分に引き出します。

しかしKtemaの最も優れたところは、「音楽が備え持つ感情表現を、音楽に寄り添って忠実に鳴らす」ことだと思います。

主観ですが、最近のハイエンドスピーカーは「音を音として極限までリアルに鳴らす」ことを目的として開発される傾向があるように感じます。
YGやB&Wの800最新シリーズは特にその度合いが強く、グランカラッサの一撃など一瞬の「音」にはとても強いのですが、音楽全体として捉えた時に(筆者には)不満が残ります。
一音一音に迫力を求めた結果、音が連続して形成する表現(すなわち音楽)が苦手になってしまい、感情表現がおざなりになってしまった印象です。

B&Wの800D3を初めて聴いたときの第一印象は、「なんてつまらない音楽・・・」でした。開発陣が正しい音を追求した結果、連続音から構成される音楽が置いてけぼりになったように感じたのです。以前の800 Diamondなどはこんな音づくりではなかったのですが・・・。
800D3はデザイン的にも醜悪な姿に変貌してしまったので、筆者にとっては一生縁がないモノになりました。

筆者はスピーカーに対して、音楽へ魂をこめるというか音楽が持つ喜怒哀楽を忠実に再現してほしいと考えており、明るい音楽は明るく、悲しい音楽は悲しく鳴らしてくれることを求めています。
この観点において、Ktemaは唯一無二の価値を持っています。

ハイエンドの世界ではマジコやAvalonが「音の再現性」と「音楽の再現性」の中庸を行っているのではないかと筆者は感じますが、音楽表現の点でKtemaを超えるモデルはフランコが亡くなった今、もはや出てこないかもしれません。

最も得意なのはクラシックやオペラだと思いますし、評論家からはその分野で高く評価されていますが、その理由は弦楽器とピアノ、それにボーカルが恐ろしく感情のこもった質感で鳴ってくれるからです。
しかし、ジャズやポップスが苦手という訳では無く、実際筆者もクラシック以外を中心に聴いています。


Ktemaの使いこなし〜 評論家ですら苦労した、じゃじゃ馬

ただし、使いこなしは相当に難しいです。

そもそもの話ですが、フランコは大の飛行機嫌いでヨーロッパ以外の地域への旅行を好みませんでした。
彼が手がけるスピーカーの多くはヨーロッパの住宅で使用されることを前提としており、日本の住宅事情と合わないものになっています。具体的には、石造りでライブな住宅で鳴らすことを前提に設計されています。

このため、デッドな石膏ボードが多用された部屋や和室で鳴らした際には、本来反射されるはずの一時反射音が吸収され、音場の広がりが失われてしまいます。特に試聴室などのデッドな環境ではこの影響が強く出るため、一部の評論家から「音場が何故か外側に広がらない」「低音が遅い」というコメントがされたりしました。
これは、既存のスピーカーのものさしで測れるレベルを超えており、全く違う使いこなしを求められることを示しています。百戦錬磨の評論家でさえ、正しい使い方が分からなかったということですね。

また、実際に使ってみると良く分かるのですが、指向性がかなり高いスピーカーでもあります。
このため、原則として視聴位置はスピーカーと正三角形のポジションを取ることが前提で、左右のスピーカーと正対する位置で聴くのが良いと考えています。
他のスピーカーと同様、壁面と平行に設置する置き方にしてしまうと、せっかくバウンスされた一次反射の音が耳に届かず、Ktemaが持つ良さの半分以上が殺されてしまうように感じます。

さらに、高さ方向の指向性も高いため、ニアフィールドの環境だと視聴する際の椅子の高さにも非常に敏感に反応します。
通常のスピーカーはツイーターを耳の位置に合わせるのですが、それだと音が中抜けになってしまう印象です。むしろ、スコーカーの高さに耳を近づけた方がKtemaの場合は良いように思います。


対策としては、部屋、特に一次反射面を可能な限りライブな環境に近づけること。
それが難しければ、左右の外側のスリットに合わせてウイング(反射板)を設置するのが良いです。
元々筆者はQuadのESLを10年以上継続して使っており、反射面を工夫する使いこなしに慣れていたことから、比較的早く使いこなしを習得することができました。

また、スパイクで水平に設置できるようになっているのですが、スパイク受けや下面のボードの影響も強く受けます。
色々試しましたが、ボードは天然素材が良く無垢の一枚板が最も良好でした。

鳴らすことの難しさから色々誤解を生みやすいモデルなのですが、きちんと設置することで非常に高いレベルで音楽を鳴らせるスピーカーだと思います。


Ktemaの弱点〜 あえて挙げてみると

このスピーカーの弱点は、いくつかあります。

まずは価格
500万円近い根付けは決して安くはなく、実際に国産乗用車が買えるくらいの値段です。(ちなみに我が家では「レクサス」というあだ名で妻から呼ばれています。)
スピーカーにこの値段を支払うことができる人は限られるでしょう。しかし、ハイエンドスピーカーとしてはむしろ安い部類に入り、コストパフォーマンスは抜群と言って良いかと思います。YGやマジコのハイエンドモデルは余裕で1,000万円を超えますが、それらと比べて個性の違いはあるものの、見劣りすることは決してありません。

あとは、サイズや構成からダイナミックレンジに限りがある、という点でしょうか。
低音について言えば色々試しましたが、40Hz以下をフラットに再生することは難しく、高域も16,000Hz以上はスパッと切れたように出ません。どうしても最低域から最高域(20Hz〜100kHz程度)まで再生したい場合には、サブウーファーやスーパーツイーターの追加が必要です。
しかし、音楽再生においては大きな不満を感じさせることはなく、他で得られない質の高い音楽を鳴らすことができます。

他には上述した通り鳴らし方が難しいくらいで、これといった弱点は思いつかないですね・・。本当に良いスピーカーだと思います。


結論的なもの

唯一無二で、他に比肩するものが存在しないスピーカー後世にその名前を残していくプロダクト
それがKtemaだと思います。

発売11年目にして、最新のステレオサウンド214号(ハイエンドオーディオ機器に特化した、日本最高峰のオーディオ雑誌、年に4回発刊)の表紙を飾ったことからも、長年に渡ってその魅力が衰えないことを示しています。

もし、幸運にもオーディオ店で実際に触れる機会があれば、ぜひ聴いてみてください。
きっと、至福のひとときを過ごすことができるのではないかと思います。

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Posted by butsuyoku-weekly
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